(愛知学院大学心身科学部健康科学科教授)
第61回日本東洋医学会年次学術総会を平成22年6月4日(金)〜6日(日)迄、名古屋国際会議場にて開催させていただくことになりました。名古屋では、平成14年5月に第53回学術総会を荻原幸夫会頭のもとで開催しており、8年振りの開催となります。今度図らずも、会頭を務めさせていただきますが、身に余る光栄に存じ、全力を挙げて取組みたいと考えており、会員諸先生のご支援、ご助力を御願い申し上げます。
私事にわたり恐縮ですが、私と漢方医学との関わりを紹介させていただきます。
私は昭和53年10月から1年間、文部省(当時)在外研究員として、スウェーデンカロリンスカ研究所臨床生理学教室(主任:J.Wahren教授)へ留学、運動時の代謝等についての研究に従事し、個体のインスリン感受性の評価法のゴールドスタンダードである正常血糖クランプ法を習得して来ました。
帰国後の昭和55年頃、名古屋大学医学部第三内科坂本信夫教授(当時)に、「糖尿病神経障害と漢方治療」について臨床的検討を行わないかとお誘いを受けました。
早速、10数例の糖尿病末梢神経障害の患者にツムラ牛車腎気丸を投与しましたところ、「しびれ」に対して、著明な改善を認めました。そこで、坂本教授を中心に地元で研究班をつくり、その結果を昭和59年に和漢医薬学雑誌に投稿しました。メコバラミンとの比較試験も行い、「糖尿病」に掲載されました。
その後も、糖尿病腎症に対し、柴苓湯を投与し検討を加えましたところ、投与例では人工透析導入が有意に少ないという成績を得ました。しかし、研究室の構成員が少なく、「糖尿病・肥満症・高齢者の運動療法」に関する研究などスポーツ医学の研究に専念していました。
平成3年名古屋大学大学院医学研究科担当となってからは、大学院生、研究生が多数集まって来られ、漢方医学に関しても、動物実験を行い、牛車腎気丸がストレプトゾトシン糖尿病ラットのインスリン抵抗性を改善させる事実を見出しました。機序に関し、NOの関与や分子生物学的解析も行い、インスリンシグナル伝達機構の関与も明らかにしました。桂枝加朮附湯とのその構成生薬についても検討を行い、Diabetes Res Clin Pract(DRCP)、Horm metab Res、Life Sciences等に論文が掲載されました。牛車腎気丸では、臨床的検討を行い、牛車腎気丸が糖尿病合併症の予防、治療に有用なだけでなく、2型糖尿病の発症にも有用である事実をDRCPに報告しています。
日本東洋医学会との関わりは、平成7年より評議員、平成13年〜21年迄理事、東海支部長を務めました。その間、平成14年には上述の荻原会頭のもとで、第53回総会の準備委員長を務めさせていただきました。
また、日本東洋医学会学術教育委員長として、平成14年12月「入門漢方医学」(文光堂)を刊行しました。本書は、医学教育における「コア・カリキュラム」を踏まえたものであり、学会レベルの教科書の嚆矢となるものでした。引き続き同書の英訳にも委員長として取り組み、同17年には「Introduction to KAMPO」をElsevierより刊行しました。学会誌の編集委員長も2年間務めました。
東海支部では、伝統医学研究会を金子幸夫副支部長(現支部長)に代表世話人をお願いし、平成17年より毎年1回、これまでに4回開催致しました。
今回の学会では、メインテーマを「21世紀における漢方医学・医療:基礎と臨床」と致しました。
「基礎」には、私のこれまでの漢方医学との関わりも考慮に入れ、古典など東洋医学に関するものと西洋医学的な基礎医学の両者を含んでおり、このメインテーマに関連する教育講演、シンポジウム等を数多く企画致しました。地元出身の先達である浅井国幹顕彰記念の講演も行います。
学会の運営体制としては、東海支部には「全国区」の先生が数多くおられますので、東海支部会員全員で取組みますが、準備委員長に金子幸夫先生(理事・東海支部長)、企画委員長に金倉洋一先生、学術プログラム委員長には小野孝彦先生、会頭補佐として、伊藤嘉紀先生、広瀬滋之先生の両先生というメンバーです。名誉会員の青山廉平先生、二宮文乃先生、中川良隆先生には特別顧問を御願いしています。企画委員会には、10、20年後の日本東洋医学会を支える若手の会員の先生にご就任いただき、「21世紀の漢方医学・医療」に関して、活発な討論が行われており、本学会のmile stoneになりうる学術総会となることを確信しています。
年次学会では「一般講演」の発表が最も重要であると考えており、会員諸先生からの多数の演題のご応募をお待ち申し上げております。